• 比較・国際教育学研究者/植田啓嗣のホームページ

タイの先進的な英語教育(EP)

近年、タイにおいて英語を教授言語とする特別な教育プログラムを設置する学校が見受けられます。中等学校(※中学校や高校)だけではなく、初等学校(※小学校)あるいは幼稚園でも英語で学習するプログラムが置かれています。プログラムの種類・呼び名はいろいろありますが、代表的なものとしてEnglish Program(EP)が挙げられます。大学附属校(実験学校)や教育上の特色を出したい私立学校だけでなく、地方の国立初等学校(※タイの公立学校のほとんどは国立学校)の中でもEPなどのプログラムを持つ学校もあります。Punthumasenは、EPについて以下のように説明しています。

1995年、基礎教育委員会(OBEC)は、全国のEnglish Program(EP)を準備している学校でEPを開始しました。これらの学校は、「EPスクール」または「バイリンガルスクール」と呼ばれることもあります。これらの学校では、「英語は伝達の道具」として使われています。典型的なEPスクールでは4つの教科に関して英語で指導しています。4つの教科とは、理科、数学、英語、保健体育です。タイ語や社会科などの他の教科はタイ語で指導しています。EPで学ぶ児童生徒は、通常のタイの学校プログラムよりも高い教育費を支払わなければなりません。それゆえ、EPスクールはネイティブスピーカーを雇って英語で教えることが教育省から許可されており、ネイティブスピーカーの教師は、タイの教師と同じ学校で英語科目を教えるのに比べて高い給与を受け取ることができます(Punthumasen, 2007, pp.6-7)。

タイにおいては1990年代後半にはまず中等学校(中学・高校)でEPを持つ学校が設置されました。A初等学校のEP担当者へのインタビューによると、国立初等学校においては2003年から全国17校でEPがはじまったようです。2017年時点で、教育省基礎教育委員会(OBEC)が管轄する小学校、つまり一般的な国立初等学校の中でEPを設置している学校は37校存在します。

私は、2018年9月にタイの地方都市にある公立のA初等学校のEPについて、インタビュー調査および授業観察を実施しました。そこで得られた情報から、EPの状況について紹介します。

A初等学校EPのリーフレットには、「EPプログラムの児童たちは、算数、理科、英語、保健体育を英語で学ぶ」と書かれていますが、それに加えて、コンピュータと演劇の授業も英語で行っているということでした。1クラスの担任は、タイ人の教員と外国人教員がペアとなっています。算数や理科は英語で実施することになっていますが、タイ人教員がタイ語で指導をしている時間もありました。英語による教科学習だけでは子どもたちが十分内容を理解できないので、タイ語による教科学習も行われているということです。教科書は英語で書かれたものを使っているものの、教育課程・教育内容に関しては「2008年基礎教育コアカリキュラム」に則って実施しているということでした。

下表は、EPの6年生の時間割を示しています。一般的なタイの6年生は英語の授業が週2回と決められていますが、EPの6年生は毎日英語の授業が設定されています。また、英語に加えて算数、理科、コンピュータ、演劇の授業も外国人教員が担当していることが見てわかります。理科に関しては、週1回タイ人教員による授業も行われています。

A初等学校には、調査時点で36名の外国人教員が在職しています。国籍はアメリカ、イギリス、オーストラリアなど多岐にわたっていますが、半数がフィリピン出身者でした。フィリピンは、英語を公用語の一つとして位置付けており、アジアの中では高い英語能力を持つ国です。EP担当者(タイ人)は、フィリピン人教員について「英語力はそれほど高くないものの、同じアジア人であり、英語が母語でないため、教え方が上手である」と評していました。

EPの児童たちは、5年生の11月にシンガポールあるいはオーストラリアへの研修旅行に参加します。A初等学校はシンガポールの学校と協定を結んでおり、シンガポールの協定校からもA初等学校に児童たちが訪れるなど、国際交流活動に取り組んでいます。

私が今回調査をする中で驚いたことがありました。EPの児童(下の写真に写っている子)が、私に対してEPでの学びの説明を英語でしてくれたのです。私はこれまで多くの学校を訪問していますが、在籍する子どもによる説明ははじめての経験でした。A初等学校では幼稚園を併設しており、幼稚園においてもEPを設置しています(トップ写真)。私も何名かの児童と英語で話してみたところ、多くの子が幼稚園の年齢から外国人教員と英語でコミュニケーションをとっているため、彼らの英語には気になるタイ語訛りは感じられませんでした。彼らは幼少期のころからネイティブの発音を聞くことで、訛りの少ない発音を身につけているのでしょう。

≪参考≫タイ人英語についてのホームページ

※上記のホームページに私の論考も掲載しています。

≪引用文献≫

・Punthumasen, P.(2007)International Program for Teacher Education: An Approach to Tackling Problems of English Education in Thailand, Paper presented at The 11th UNESCO-APEID International Conference Reinventing Higher Education: Toward Participatory and Sustainable Development 12-14 December 2007 Bangkok, Thailand.