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タイの日本語教育:ブラパー大学附属校IEP

タイ・チョンブリーに位置する国立大学ブラパー大学の附属校であるブラパー大学ピブーンバンペーン附属学校(以下、ブラパー大学附属校)の国際教育プログラム(IEP)について紹介します。ブラパー大学附属校IEPは、日本語あるいは中国語を初等1年から履修できるという特徴があります。ブラパー大学附属校はチョンブリー県チョンブリー市バンセーンに所在します。ブラパー大学附属校IEPの概要について以下に示します。

国際教育プログラム(International Education Program: IEP)は、ピブーンバンペーン附属学校の1つのプログラムで、英語が教室の主な教授的言語です。このプログラムの以前の名前は2001年に開始された「英語集中プログラム(English Immersion Program:EIP)」で、2001年5月22日に非政府プロジェクトとして大学理事会によって承認されました。EIPは他のインターナショナルスクールとは異なり、教育省の改訂・承認を受けた国家カリキュラムを用いた国際教育開発に重点を置いた、ブラパー大学教育学部の研究プロジェクトとして設立されました。2004年には、学校行政制度の変更や教育改革に伴い、プログラム名を「基礎教育のための国際教育プログラム(IEP)」に変更しました。現在は、「国際教育プログラム(IEP)」と呼んでいます。(ブラパー大学附属校IEPリーフレット2018年版,p.1より)

大学附属校であるがゆえに、国際教育開発のための実験的なプロジェクトとしてはじまったことがわかります。タイにおいては1999年に国家教育法が成立し、2001年からカリキュラムが大幅に改訂されるなど、2000年代初頭は大規模な教育改革が進められてきた時期であり、IEPもその教育改革の潮流の中で設立されたことがうかがえます。

私は、2018年8月27日にブラパー大学附属学校IEPについて、インタビュー調査および授業観察を実施しました。インタビュー調査は、IEPの日本語教育を担当している小川翔平先生に対して行いました。

IEPは、初等1年から中等6年まで12学年のクラスを持っています。1学年20~30人であり、各学年は1クラスずつ(中等4年以降は文系理系でクラスが分かれている)です。IEPには多くの外国人教員が在籍しており、出身国をみるとアメリカ、イギリス、フィリピン、シンガポール、南アフリカ、ロシア、ドイツ、台湾など多岐にわたっています。

下表は、ブラパー大学附属校IEPの教育課程を表しています。基礎8教科および学習者発達活動に関しては、2008年基礎教育コアカリキュラムに則って実施されています。学校裁量の教科をみてみますと、IEPの特色が表われています。英語は1~3年生が週4時間、4~6年生が週3時間追加されています。これは、IEPではタイ語や歴史以外の授業を英語で実施しているため、英語の基礎力をつけるために必要な時間であると言えるでしょう。

表 ブラパー大学附属校IEPの教育課程(週当たりの授業時数)

先述しましたが、日本語あるいは中国語のいずれかを初等1年から履修できる点も特徴です。小川先生によりますと、保護者は中国語の選択を望む傾向がある一方で、子どもたちは日本語の選択を希望する傾向にあり、現在(調査時点)の1年生や2年生は日本語を受講する児童の方が多いと言います。日本のマンガやアニメなどがタイの子どもたちに人気があることも一因として考えられます。

私は、IEP初等1年の日本語授業(担当:小川先生)を参観しました。写真からわかるとおり、子どもたちはマットの上に座ったり寝そべったりしながら授業を受けています。この日の授業は「色の名前を覚える」ことがテーマでした。タイ人の教員がサポートに入っているものの、授業は英語および日本語で進められており、タイ語はほとんど使われていませんでした。小川先生は色の名前を説明し、子どもたちは発音する、書くという練習をしていました。1コマは60分なのですが、初等1年の子どもたちが60分間の授業で集中力を保つのは難しく、さまざまな工夫がなされていました。たとえば、動画を使いながら子どもたちの興味を引き付けたり、小川先生が色の名前を言って子どもたちがその色を探してタッチするゲームをしたりしていました。

IEPは外国人教員を多く有していることから、費用がかかることが考えられます。一方でブラパー大学附属校は、一般的な国立学校(※タイの学校の大多数は国立学校)ではないため、授業料や施設設備費など学費がかかります。保護者はどのくらいの学費を毎年払っているのでしょうか。ブラパー大学附属校IEPリーフレットによりますと、保護者は毎年150,000バーツの学費を支払っています。内訳をみてみますと、年間授業料が48,850バーツ、入学金が1,150バーツ、課外活動費が50,000バーツ、年間学校補助費が30,000バーツ、学校教材費8,000バーツ、コンピュータラボ費3,000バーツ、医療費2,000バーツ、図書館費3,000バーツ、スポーツ費4,000バーツとなっています。教科書代、制服代、昼食代、新入生キャンプ代はこれに含まれません。

タイ統計局によりますと、2017年調査における全国の世帯当たりの平均月間所得は26,946バーツでした。つまり、ブラパー大学附属学校IEPの1年間の学費は平均的な家庭の年間所得の半分に当たります。このことから一般的な家庭の子どもが通うのが難しく、IEPは比較的富裕な家庭の子どもたちを対象とした教育プログラムであることがわかります。

タイにおいてはこのような富裕層の通う学校と貧しい子どもたちが通う学校の教育格差が顕著にみられます。私はその実態について研究しています。